読書量の減少
フィンランドは2000年の国際学力調査で「読解力」が1位になり、各国から視察が相次ぎました。しかし、順位は徐々に下がり、2012年調査では6位になってしまいます。教育文化省の役人は「当時はとても心配した。若者がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やゲームに夢中になり、長文に触れる機会が減った。学校も読書に重点を置かなくなっていた」と当時を振り返って言いました。
日本でも読解力の低下が指摘されています。文部科学省は原因の一つとして、携帯電話の普及に伴う長文を読む機会の減少があるのではないかと分析しています。実際、内閣府の調査では、高校生の3人に2人は平日に携帯電話で2時間以上ネットを利用しているそうで、全国学校図書館協議会の2016年調査では、1か月に1冊も本を読まない生徒が57.1%に上ったといいます。
大学生の読解力も心配です。全国大学生活協同組合連合会の2015年の調査によると、1日の読書時間がゼロの大学生の割合は45.2%で、これは2012年以降増加し続けているとのことです。今や読書をする大学生は少数で、3年でゼミに入るまで図書館に行ったことがない学生もいるといいます。ある私大で講師を務めた人は「試験やリポートではSNSや日記のような文章を書いてくる。文の構造を理解せず、考えも整理できない」と嘆いていました。
長文を読むことの必要性
塾でも生徒たちの読書量は減っていると感じることがよくあります。本を紹介したり、宿題の形で本を読ませたりと、さまざまな努力をしていますが、なかなか読書が習慣として定着するところまではいきません。携帯電話やゲームの面白さ、手軽さを知ってしまうと、読書が面倒で辛いものになってしまうのでしょう。しかし、長文を読むことに慣れていないと、理解力と表現力が低下してしまいます。これは国語のみならず他の科目にも影響を及ぼしますが、問題はそれだけに留まりません。学生時代の学業成績だけでなく、社会人としてさまざまな職業に就いてからも苦労をすることになります。
社会の現場での苦労
名古屋のとある会社では、入社3年目までの正社員に月1冊の読書を義務づけ、感想文を書かせているそうです。若い社員は取引先のニーズを理解するのにも時間がかかり、書いてくる報告書も要領を得ない・・・そういった事態に危機感を持った社長の発案で2007年に始まったといいます。また、社員の「読む力」や「書く力」を高める以前に、基本的な言葉の使い方に頭を悩ます会社も多いようです。ある大手保険会社は、顧客や同僚にメールや報告書を送る際の留意点をまとめ、社員に配布しました。相手に不快感を与える表現から接続詞の使い方まで、日本語のイロハを説いているそうです。社会人といえども、ここまで学び直さないといけないぐらい日本語の力が落ちているということでしょう。
読書量回復への取り組み
一方で、このような現状に対して、何とかしようと努力する動きもあります。
冒頭で紹介したフィンランドは、2012年から読解力を向上させる指導法の開発に着手、学校と公立図書館の連携を強める読書活動も推進しました。公立図書館は充実しており、児童図書を多数取り揃えたり、本の朗読イベントを年間700回も開催したりしました。その結果、2015年調査の結果で、同国の読解力は4位まで回復しました。
日本でも、文部科学省が読む力と書く力の向上を掲げた「読解力向上プログラム」を策定し、学校現場では授業開始前の時間を読書に充てる「朝の読書」などが活発化しました。その後、学習内容を増やした「脱ゆとり教育」の効果もあり、日本の読解力は回復傾向が続いています。文科省はこの結果を受け、語彙力の強化や文章を読む学習の充実を2020年度から実施する新学習指導要領にも反映させる意向です。
民間レベルでも様々な取り組みが行われています。ある書店では、6人の店員によるお薦め本のアピール大会「ビブリオバトル」が開催されました。小説から言語学を扱ったノンフィクションまで幅広いジャンルの本の魅力を5分間で紹介し、来場者が読みたい本を投票で決めるというものです。約10年前に考案されたゲームで、本を手に取るきっかけ作りとして注目されています。
塾でも今後いろいろなアイデアを出して、生徒たちに読書のきっかけを提供できるよう努力していこうと考えています。